取締役の解任
2019/03/08
取締役の解任について、どのような場合に「正当な理由」が認められるのでしょうか(会社法339条2項)。
1 争いの形態
(1)株主総会等の決議で解任された取締役からの損害賠償請求(会社法339条2項)
「正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます。」
(2)株主総会等において取締役の解任決議が否決された場合の、少数株主による取締役解任の訴え(会社法854条1項)
「職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否定されたとき・・・・、訴えをもって当該役員の解任を請求することができます。」
2 「正当な理由」の類型
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a 不正の行為や定款または法令に違反する行為があった場合
※前記解任の訴えとパラレルに考えると、重大な違反行為であることが必要か -
b 取締役が経営に失敗して会社に損害を与えた場合
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c 当該取締役の経営能力の不足により客観的な状況から判断して将来的に会社に損害を与える可能性が高い場合
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以上(弥永真生「正当な理由のない解任と損害賠償」ジュリ1497号111頁)
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d 一定の定款変更により在任中の役員等の任期が満了する際に、解任決議をする場合(判例評論691号3頁)
監査等委員会または指名委員会等を設置したり廃止したりする定款変更(会社法332条7項1号2号)
非公開会社が公開会社となる旨の定款変更(同項3号)
大株主等の信頼関係の破壊等は「正当な理由」に該当するか
肯定した裁判例として、(大阪地判平成10年1月28日)ユタカ精機精密事件があります。
「少数の株主が株式の大部分を支配する形態の株式会社であっても、この場合に限って、同条既定の正当事由の範囲を殊更に広く解する理由はないというべきである。もとより、右にかかわる具体的な事情が、前記の取締役の職務への著しい不適任となるべき事情等の業務執行の障害となるべき客観的状況に該当する事由となることがあるのは当然である。」
「原告隆司は・・・独断専行の挙に出るようになり、被告精機の代表取締役を解任された後も、被告精機の従業員に対して独断的にふるまって社内を混乱させたり、新たに被告両社の代表取締役に就任した被告みや子の業務執行を妨害したりしたこと、その結果、原告隆司が被告両社の社内における信頼を喪失したこと、これらのために原告隆司に被告両社の取締役として、業務執行の障害となるべき客観的事情が存在した」旨を認定しました。
否定した裁判例には、(東京地判平成28年6月8日)パワハラ傾向取締役事件があります。
「解任について正当な理由がある場合とは、取締役に職務を執行させるに当たり障害となるべき状況が客観的に生じた場合をいい、大株主の好みや代表者との折り合いというような単なる主観的な信頼関係喪失を理由とする場合には正当な理由の存在は認められない。」
「原告は、部下の指導に当たり、厳しく叱責したり、週報会で幹部社員に対しても、辛辣な批判を行うなどしたことが認められ・・・原告の指導方法が社員の反発を招いていた状況もうかがわれることからすれば、原告のやり方は幹部社員の信頼や支持を得ていたとは言い難く、その方針が指導の方法として必ずしも適切なものであったかどうかについては疑問も残る。しかし、原告は、経営学の知見に基づき経営管理の改革を望むA(設立当初からの代表取締役で過半数の株式を有する株主)に招かれ、経営、人事、労務に関する事項や社員やリーダーの育成に関して顧問契約を締結し、その依頼を前提に取締役就任して職務を遂行し、また、週報会においても各部門の報告をときには評価し、ときにはさらに改善を求めるなどして指導に当ってきたのであり、その職務の一環としてされた上記の叱責や批判をもって取締役の職務を執行させるに当たって障害となるべき状況が客観的に生じているとは認めるに足りる証拠はない。」
なお、被告は原告のパワハラ行為(人格権侵害)の主張をしましたが、「人格権侵害にあたる程の行為を行ったと認めるに足る証拠はない」とされました。
3 損害
正当な理由がない場合、残存任期全期間の報酬が認められるのでしょうか。
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(1)月額報酬分
月額報酬については、通常は解任前に報酬額決定の株主総会決議が行われており、かつ、株主総会決議でいったん額が定まれば毎年決議が行われなくても取締役は報酬の支払いが受けられます。したがって、解任がなかった場合に受給の蓋然性を検討するまでもなく、当然に残存任期の報酬額が損害に含まれると解されてきました。
残存任期全額認めた裁判例(前記東京地判平成28年6月8日)
1500万円(100万円×15カ月)
限定した裁判例(東京地判平成27年6月29日)任期短縮事件
定款で任期10年と定められており、退任時点での残任期は5年5カ月でした。定款変更で任期を1年とし、原告取締役を退任させました。会社法339条2項類推適用事例です。損害としては、退任時から2年分のみ認めました。
理由
「平成23年1月から平成28年6月までの5年5カ月以上もの長期間にわたって、Y社の経営状況やXらの取締役の職務内容に変化がまったくないとは考えがたく、Xらが平成28年6月までの間に上記の月額報酬を受領し続けることができたと推認することは困難であって・・・」
批判(判例評論691号2頁)
具体的な事情を何ら認定せず、抽象的に会社の経営状況を要求すると、「経営状況の変化の可能性の不存在」という困難な立証を取締役に要求することになります。
職務内容に変更があっても、取締役の同意なく報酬を減額することはできません。取締役が損害賠償請求する事案で、取締役が報酬減額に同意する可能性まで考慮に入れるのは妥当ではありません。
政策的見地からも問題あり、少数派株主の利益を保護する合意に裁判所が介入するのは不当だと考えられます。
【学説】
「株主数が少ない会社の場合、取締役の改選は一般株主の信任を問う手続きではなく、経営者同士が株主間契約により相互の地位を保証し合い、契約に違反した場合の賠償額の予定(民法420条)まで取り決めたに等しい。」(江頭憲治郎「会社法第3版」362頁)
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(2)賞与・退職慰労金
解任前に支給決議が通常行われていないから、規程や慣行の有無などから受給の蓋然性を検討する必要があります。
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